シン・ぱいおつ日記

ぱいおつが始まります

有限群は各元の位数や各部分群の位数で特徴づけられるか?っていう話

こんにちは. 

ぱいです. 

 

今日は, 群論について下記の問題を解説します. 

(2023/2/12 追記. 不備があったため, 条件 (4) の表現を差し替えました.)

問題 G を群として, 下記の条件 (1) ~ (4) を考えます. 

 (1)  G は有限群となる. 
 (2)  G のどんな真部分群も有限群となる. 
 (3)  G のどんな元の位数も有限となる. 
 (4)  G の生成元として, 位数が有限な元の組を取ることができる. 

このとき, 明らかに下記の (ア) ~ (ウ) が成り立ちます. 

 (ア) (1) ⇒ (2)
 (イ) (2) ⇒ (3)
 (ウ) (3) ⇒ (4)

では, (ア) ~ (ウ) の逆はそれぞれ成り立つでしょうか?

 

(目次)

 

(ア) (1) ⇒ (2) の逆について

(再掲) 

 (1)  G は有限群となる. 
 (2)  G のどんな真部分群も有限群となる. 

 

結論から言うと, (ア) (1) ⇒ (2) の逆は成り立ちません!

つまり, (2) を満たすが (1) を満たさないような群が存在します. 

以下, そのような群の反例を考えたので紹介します. 

 

(ア) (1) ⇒ (2) の逆の反例 G を下記の式で定めます. 
\begin{align} G := \bigg\{ \exp \Big( \dfrac{2a\pi\sqrt{-1}}{2^{N}} \Big) \in \mathbb{C} \ \bigg| \ a\, と\, N\, は非負整数 \bigg\} . \end{align}すると,  G は (2) を満たしますが, (1) を満たしません. 

 

各非負整数  N に対して,  G の巡回部分群  C_{N} を下記の式で定めます. 

\begin{align} C_{N} := \bigg\{ \exp \Big( \dfrac{2a\pi\sqrt{-1}}{2^{N}} \Big) \in \mathbb{C} \ \bigg| \ a \in \mathbb{Z} \bigg\} . \end{align} 

 G は下記 3 点の性質 (☆) を満たします. 

 

性質 (☆)

  • どの  g \in G の位数も,  2^{N} の形で表せる. 
  • 位数が  2^{N} となる元  g \in G は,  g = \exp \big( 2a\pi\sqrt{-1} / 2^{N} \big) の形で表せて,  C_{N} を生成する. 
  • よって, 位数が  2^{N} となる元  g \in G の個数は, 有限個 ( 2^{N-1} 個) しかない. 

 

さて, これを踏まえて,  G が (2) を満たすことを背理法で示します. 

なお, (1) を満たさないことは明らかなので省略します. 

 

 G の真部分群  H で位数  \infty となるものがあったと仮定します. 

関数  f : G \to \mathbb{Z} f (g) := ( g の位数) と置きます. 

すると, 上記の性質 (☆) の 3 点目から,  f H において非有界となることが分かります. 

 

 g \in G を任意に取ります. 

関数  f の非有界性から,  f (g) \leq f (h) を満たすような元  h \in H が取れます. 

 G の上記の性質 (☆) から,  f (g) = 2^{N},  f (h) = 2^{M} と表せます. 

このとき,  g,  h の生成する部分群はそれぞれ  \langle g \rangle = C_{N},  \langle h \rangle = C_{M} と表せるので, 下記の包含関係が成り立ちます. 

\begin{align} g \in C_{N} \subset C_{M} \subset H. \end{align}以上から, 任意の  g \in G g \in H を満たすので,  G = H となります. 

ところが, これは,  H G の真部分群であることに矛盾します. 

よって, 「 G の真部分群  H で位数  \infty となるものがあった」という仮定は誤りとなります. 

つまり,  G は (2) を満たすことが示せました. 

 

したがって,  G は (2)  \not\Rightarrow (1) の反例となっています!

わーい!

 

 

他にも, 任意に固定した素数  p \geq 10^{75} に対して, 下記 2 点を満たすような群  T_{p} が存在するらしくて, この  T_{p} たちも (ア) (1) ⇒ (2) の逆の反例となっています. 

(Twitterセミ法師さん (@CicadaHosshi) に教えていただきました. この場であらためてお礼申し上げます!)

  •  T_{p} は無限群である. 
  •  T_{p} のどんな部分群も, 位数  p である. 

この群  T_{p} は「タルスキーのモンスター群」と呼ばれています. 

タルスキーのモンスター群は, 1900 年代にタルスキー氏がその存在を予想し, 1979 年に オルシャンスキー氏がその存在を証明したらしいです. 

詳細はあまりよく知りませんが, 参考文献のリンクを貼っておきます. 

 

(参考文献)

A. Olshansky, An Infinite Group with Subgroups of Prime Orders , Math. USSR Izv. vol 16 (1981). 

 

(イ) (2) ⇒ (3) の逆について

(再掲)

 (2)  G のどんな真部分群も有限群となる. 
 (3)  G のどんな元の位数も有限となる. 

 

結論から言うと, (イ) (2) ⇒ (3) の逆も成り立ちません!

つまり, (3) を満たすが (2) を満たさないような群が存在します. 

以下, そのような群の反例を紹介します. 

(むぐむぐ勉強会で sei さん (Twitter: @natmatus081) に教えていただきました. この場であらためてお礼申し上げます!)

 

(イ) (2) ⇒ (3) の逆の反例有限群  \mathbb{Z} / 2\mathbb{Z} を可算個コピーし, 各整数  N に対して  G_{N} := \mathbb{Z} / 2\mathbb{Z} と置きます. 
この  G_{N} たちの直積を取り, 群  G を下記の式で定めます. 
\begin{align} G := \prod_{N \in \mathbb{Z}} G_{N} . \end{align}すると,  G は (3) を満たしますが, (2) を満たしません. 

 

((3) を満たすことの証明)

どの  g \in G の位数も  2 以下なので,  G は (3) を満たします. 

 

((2) を満たさないことの証明)

各整数  N に対して,  G_{N} の部分群  H_{N} を下記の式で定めます. 

\begin{align} H_{N} = \begin{cases} \{ 1 \} & (N = 0), \\ \mathbb{Z} / 2\mathbb{Z} & (N \neq 0). \end{cases} \end{align}この  H_{N} たちの直積を取り, 群  H を下記の式で定めます. 

\begin{align} H := \prod_{N \in \mathbb{Z}} H_{N} . \end{align}すると,  H G の部分群かつ無限群となります. 

よって,  G は (2) を満たしません. 

 

以上から,  G は (3)  \not\Rightarrow (2) の反例となっています!

わーい!

 

(ウ) (3) ⇒ (4) の逆について

(再掲)

 (3)  G のどんな元の位数も有限となる. 
 (4)  G の生成元として, 位数が有限な元の組を取ることができる. 

 

結論から言うと, (ウ) (3) ⇒ (4) の逆も成り立ちません!

つまり, (4) を満たすが (3) を満たさないような群が存在します. 

以下, そのような群の反例を考えたので紹介します. 

 

(ウ) (3) ⇒ (4) の逆の反例行列  g, h \in \mathrm{GL}(2,\mathbb{R}) をそれぞれ下記の式で定めます. 
\begin{align} g := \left( \begin{matrix} 0 & -1 \\ 1 & 0 \end{matrix} \right), \quad h := \left( \begin{matrix} 0 & -1/2 \\ 2 & 0 \end{matrix} \right). \end{align} g h の生成する群を  G := \langle g, \ h \rangle と置きます. 
すると,  G は (4) を満たしますが, (3) を満たしません. 

 

((4) を満たすことの証明)

 g h も位数は  4 なので,  G は (4) を満たします. 

 

((3) を満たすことの証明)

 g h の積を考えると, 下記のとおりになります. 

\begin{align} gh = \left( \begin{matrix} -2 & 0 \\ 0 & -1/2 \end{matrix} \right) . \end{align}この  gh の位数は  \infty なので,  G は (3) を満たしません. 

 

以上から,  G は (4)  \not\Rightarrow (3) の反例となっています!

わーい!

 

まとめ

(再掲)

 (1)  G は有限群となる. 
 (2)  G のどんな真部分群も有限群となる. 
 (3)  G のどんな元の位数も有限となる. 
 (4)  G の生成元として, 位数が有限な元の組を取ることができる. 

 

まとめると, 群の有限性に関する条件 (1) ~ (4) について, 下記の関係が成り立つことが分かりました.!

  • (1) ⇒ (2) ⇒ (3) ⇒ (4)
  • どの矢印も, 左向き ⇐ は一般には成り立たない. 

 

反例を考えるのって楽しいですね♪

最後まで読んでいただきありがとうございました!