こんにちは.
ぱいです.
野球の世界大会 World Baseball Classic (WBC) で日本のチームが優勝して, 世間は盛り上がっていますね.
じつは, その裏で, 与えられた線形空間に対してその基底を求める競技 World Basis Classic も密かに開催されていました.
うそです. 開催されていません.
(野球のほうの WBC はマジで開催されていて, 盛り上がっていたようです.)
そんな冗談を交えながら, Twitter で, 数列全体の空間 がどんな基底を持つか知りたい 的な投稿をしました.
すると, 有識者の方々からたくさんの有益コメントをいただけました.
コメントたちを要約すると、次のような感じです.
さて, この記事の目的は, 上記要約の 2 点目・線形独立な非可算集合について, 具体例を 2 個メモすることです.
なお, 有識者の方々からいただいたコメントの詳細は, 下記ツイートのリプライ欄を参照してください.
与えられた線形空間に対してその基底を見つける競技、World・Basis・Classic
— ぱい (@END_OF_PAIOTU) 2023年3月21日
注意 : この記事において, は正整数全体の集合を表します. を含みません.
(目次)
線形独立な非可算集合の例 その 1
この節で紹介する例では, 集合論のいわゆる AD family とか MAD family とか呼ばれている集合族を使います.
しばらく, 定義のオンパレードになります.
素数を小さい順に番号づけて, , , , … とします.
(番号を からカウントしている点に注意!)
任意の写像 と任意の正整数 に対して, 正整数 を次の式で定めます.
\begin{align} a(f;n) := 2^{n} \cdot 3^{f(1)} \cdot 5^{f(2)} \cdot \cdots \cdot p_{n}^{f(n)} \end{align}
集合 を次の式で定めます.
\begin{align} A_{f} := \{ a(f;n) \in \mathbb{N} \ | \ n \in \mathbb{N} \} \end{align}
このとき, 任意の相異なる写像 に対して, 集合 の濃度は高々有限となります.
( と置けば, 番目以降の でずっと となるから.)
脱線になりますが, 一般に, となるような集合族 を「almost disjoint family」(略して AD family) と呼びます.
また, 極大な AD family を「maximal almost disjoint family」(略して MAD family) と呼びます.
「MAD family」でググったら「大阪 MAD ファミリー」という漫画がヒットします.
(注意 : 数学を題材にした漫画ではありません.)
さて, 本題に戻ります.
数列 を次の式で定めます.
\begin{align} \chi_{f} (n) := \begin{cases} 1 & (n \in A_{f} \, のとき) \\ 0 & (n \notin A_{f} \, のとき) \end{cases} \end{align}
この数列を と記すことにします.
(つまり, は集合 の特性関数.)
すると!
写像 を動かして得られる数列 たち全体の集合について, 次の定理が成り立ちます!
\begin{align} I := \left\{ \chi_{f} \in \mathbb{R}^{\mathbb{N}} \ \middle| \ f : \mathbb{N} \to \{ 1, 2 \} \right\} \end{align}
すると, 次の (1), (2) が成り立つ.
(1) の濃度は非可算となる.
(2) は 上線形独立となる.
(1) の証明
任意の 2 つの写像 に対して, 次が成り立ちます.
\begin{align} \chi_{f} = \chi_{g} \Longleftrightarrow f = g \end{align}
よって, の濃度は, 写像 たち全体の濃度と等しくなります.
したがって, となります.
(2) の証明
有限個の相異なる数列 を任意に取ります.
次の等式を満たすような実数 を任意に取ります.
\begin{align} \lambda_{1} \chi_{f_{1}} + \lambda_{2} \chi_{f_{2}} + \cdots + \lambda_{n} \chi_{f_{n}} = (0,0,\dots ) \end{align}
目標 : となることを示す!
任意の相異なる写像 , に対して, 正整数 を次の式で定めます.
\begin{align} m_{i,j} := \min \{ m \in \mathbb{N} \ | \ f_{i} (m) \neq f_{j} (m) \} \end{align}
すると, 任意の に対して となります.
( の指数に注目すれば分かります.)
そして, 正整数 を次の式で定めます.
\begin{align} M_{i} := \max \{ m_{i,j} \in \mathbb{N} \ | \ j = 1, 2, \dots , n \} \end{align}
すると, 任意の に対して次が成り立ちます.
\begin{align} a(f_{i},M_{i}) \notin A_{f_{j}} \end{align}
よって, 各数列 の 番目の成分について, 次が成り立ちます.
\begin{align} \chi_{f_{j}} \big( a(f_{i},M_{i}) \big) = \begin{cases} 1 & (i = j \, のとき) \\ 0 & (i \neq j \, のとき) \end{cases} \end{align}
さて, を任意に取ります.
数列 を次の式で定めます.
\begin{align} s(n) := \big( \lambda_{1} \chi_{f_{1}} + \lambda_{2} \chi_{f_{2}} + \cdot + \lambda_{n} \chi_{f_{n}} \big) (n) \end{align}
この数列を と置きます.
上記の の性質から, 数列 の 番目の成分は次のように表せます.
\begin{align} s \big( a(f_{i},M_{i}) \big) = \lambda_{i} \end{align}
一方, (2) の証明の初めの方 (「目標」の上らへん) の前提から, です.
つまり, は次のようにも表せます.
\begin{align} s \big( a(f_{i},M_{i}) \big) = 0 \end{align}
よって, となります.
今, は任意に取ってきているので, 次の式が得られます.
\begin{align} \lambda_{1} = \lambda_{2} = \dots = \lambda_{n} = 0 \end{align}
これで目標の式が示せたので, が線形独立となることが示せました!
わーい!
線形独立な非可算集合の例 その 2
この節で紹介する例では, いわゆる Vandermonde の行列式を使います.
任意の実数 に対して, 数列 を次の式で定めます.
\begin{align} \mu_{t} := (1, \, t, \, t^{2} \, t^{3}, \, \dots) \end{align}
この数列 たちについて, 次の定理が成り立ちます!
\begin{align} I := \{ \mu_{t} \in \mathbb{R}^{\mathbb{N}} \ | \ t \in \mathbb{R} \} \end{align}
すると, 次の (1), (2) が成り立つ.
(1) の濃度は非可算となる.
(2) は 上線形独立となる.
(1) の証明
定理 1 (1) の証明と同じなので略.
(2) の証明
有限個の相異なる数列 を任意に取ります.
次の等式を満たすような実数 を任意に取ります.
\begin{align} \lambda_{1} \mu_{t_{1}} + \lambda_{2} \mu_{t_{2}} + \cdots + \lambda_{n} \mu_{t_{n}} = ( 0, \, 0, \, \dots) \end{align}
目標 : となることを示す!
から切り取った長さ の有限部分数列 を次の式で定めます.
\begin{align} \mu_{t,n} = (1, \, t, \, t^{2}, \, \dots, t^{n-1}) \end{align}
このとき, 数列たち , , ..., について, 次の等式が成り立ちます.
\begin{align} \lambda_{1} \mu_{t_{1},n} + \lambda_{2} \mu_{t_{2}, n} + \cdots + \lambda_{n} \mu_{t_{n},n} = (0,0,\dots,0) \end{align}
よって, 目標は次のように言い換えることが出来ます.
目標の言い換え : 数列たち , , ..., が 上線形独立となることを示す!
さて, たちを列ベクトルとみなして, それらを並べた行列を と置きます.
つまり, は次のような 次正方行列です.
\begin{align} M = \left( \begin{matrix} 1 & 1 & 1 & \cdots & 1 \\ t_{1} & t_{2} & t_{3} & \cdots & t_{n} \\ t_{1}^{2} & t_{2}^{2} & t_{3}^{2} & \cdots & t_{n}^{2} \\ \vdots & \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ t_{1}^{n-1} & t_{2}^{n-1} & t_{3}^{n-1} & \cdots & t_{n}^{n-1} \end{matrix} \right) \end{align}
Vandermonde の公式から, の行列式は, 次のように表せます.
\begin{align} \det (M) = \prod_{1 \leq i \lneq j \leq n} ( t_{j} - t_{i} ) \end{align}
今, 相異なるどの , に対しても, より となります.
以上から, の行列式は となります.
よって, の列たちは線形独立となります.
つまり, たちは線形独立となります!
これで目標の事柄が示せたので, が線形独立となることが示せました!
わーい!
最後まで読んでいただき, ありがとうございました!