こんにちは.
ぱいです.
このあいだ近所の数学好きな人たちとおしゃべりする機会があって, ガンマ関数に関する下記の問題についていっしょに考えました.
\begin{align} \Gamma (nz) = \dfrac{n^{nz}}{ (\sqrt{2\pi})^{n-1} \sqrt{n} } \prod_{k=0}^{n-1} \Gamma \left( z+\dfrac{k}{n} \right) . \end{align}
ただし, はガンマ関数で, この記事では以下の定義を採用する.
\begin{align} \Gamma (z) := \lim_{N \to \infty} \dfrac {N^{z} \cdot N!} {z(z+1)\cdots(z+N)}. \end{align}
今日の記事は, この問題の解き方を2通り紹介します.
1 つめはいっしょに話したおじちゃんに教えてもらった解法で, 2 つめは僕とおじちゃん(さっきのおじちゃんとは別の人)とで協力して考えた解法です.
<目次>
問題の背景
問題の解法を紹介する前に, 背景だけ少し述べておきます.
ガンマ関数の便利な公式で, 「倍数公式」と呼ばれるものがあります.
\begin{align} \Gamma (2z) = \dfrac{2^{2z-1}}{\sqrt{\pi}} \Gamma(z) \Gamma \left( z+\dfrac{1}{2} \right). \end{align}
冒頭の問題は, この倍数公式を から に一般化した公式になっています.
なお, 倍数公式は, ガンマ関数の定義の式をゴリゴリ変形させていけば示せます.
(冒頭の問題も, 基本的な方針は同じで, ゴリゴリ式変形して解きます.)
解法の方針
見やすくするために, 変数 の含まれる項を全部左辺に集めておきます:
この「示したい等式」の左辺を と置きます.
以下, を任意の正整数として取って固定し, 下記の 2 ステップで,「示したい等式」が成り立つことを示します.
ステップ 1
が定数関数となることを示す.
ステップ 2
が成り立つことを示す.
なお, 冒頭で予告したとおり, ステップ 2 は, 以下の 2 通りの方法を紹介します.
方法 A: おじちゃんに教えてもらった方針
スターリングの公式を使って計算する.
方法 B: 別のおじちゃんと協力して考えた方針
定数関数の性質を使って三角関数の問題に帰着させる.
ステップ 1
このステップでは, ガンマ関数の定義の式をゴリゴリ変形させることで, が定数関数となることを示します.
まず, の分子を計算します.
各 に対して, は以下のように表せます.
\begin{align} \Gamma \left( z +\dfrac{k}{n} \right) & = \lim_{N\to\infty} \dfrac {N^{z} \cdot N!} { \left(z+\dfrac{k}{n}\right) \left(z+\dfrac{k}{n}+1\right) \cdots \left( z+\dfrac{k}{n}+N\right) } \\ & = \lim_{N\to\infty} \dfrac {N^{z+k/n} \cdot N! \cdot n^{N+1}} {(nz+k)(nz+k+n) \cdots (nz+k+nN)} \\ & = \lim_{N\to\infty} \dfrac {N^{z+k/n} \cdot N! \cdot n^{N+1}} { \displaystyle \prod_{\ell = 0}^{N} (nz+k+\ell n)}. \end{align}
よって, の分子は以下のように表せます.
\begin{align} \prod_{k=0}^{n-1} \Gamma \left(z+\dfrac{k}{n} \right) & = \prod_{k=0}^{n-1} \lim_{N\to\infty} \dfrac {N^{z+k/n} \cdot N! \cdot n^{N+1}} { \displaystyle \prod_{\ell = 0}^{N} (nz+k+\ell n)} \\ & = \lim_{N\to\infty} \dfrac{ N^{nz} \cdot \sqrt{N}^{n-1} \cdot (N!)^{n} \cdot n^{n(N+1)} } { \displaystyle \prod_{i=0}^{nN+n-1} (nz+i) }. \end{align}
次に, の分母を計算します.
ガンマ関数の定義式の は, ある を用いて と表せるような だけを走らせてもいいです.
よって, の分母は以下のように表せます.
\begin{align} \Gamma (nz) = \lim_{M\to\infty} \dfrac { (nM)^{nz} \cdot (nM)! } { \displaystyle \prod_{i=0}^{nM} (nz+i)} . \end{align}
後々の見やすさのため, を に置き直しておきます.
\begin{align} \Gamma (nz) = \lim_{N\to\infty} \dfrac { (nN)^{nz} \cdot (nN)! } { \displaystyle \prod_{i=0}^{nN} (nz+i) } . \end{align}
以上から, は以下のように表せます.
\begin{align} F_{n}(z) & = \lim_{N\to\infty} \dfrac { \quad \dfrac{ N^{nz} \cdot \sqrt{N}^{n-1} \cdot (N!)^{n} \cdot n^{n(N+1)} } { \displaystyle \prod_{i=0}^{nN+n-1} (nz+i) } \quad } { \quad \dfrac { (nN)^{nz} \cdot (nN)! } { \displaystyle \prod_{i=0}^{nN} (nz+i) } \quad } \\ & = \lim_{N\to\infty} \dfrac { (N!)^{n} \cdot n^{nN} } { n^{nz-1} \cdot (nN)! \cdot \sqrt{N}^{n-1} } \times \dfrac {(nN)^{n-1}} { \displaystyle \prod_{i=nN+1}^{nN+n-1} (nz+i)} \\ & = \lim_{N\to\infty} \dfrac { (N!)^{n} \cdot n^{nN} } { n^{nz-1} \cdot (nN)! \cdot \sqrt{N}^{n-1} } . \end{align}
(2 行目の 以降の項は 1 に収束するので省略しました.)
よって, 「示したい等式」の左辺 は以下のように表せます.
\begin{align} F_{n}(z) n^{nz-1} & = \lim_{N\to\infty} \dfrac { (N!)^{n} \cdot n^{nN} } { (nN)! \cdot \sqrt{N}^{n-1} } . \end{align}
この右辺は によらない定数となっています.
したがって, このステップの目標 ( が定数関数となっていること) が示せました!
以下, の表す定数を と置きます:
\begin{align} C_{n} := \lim_{N\to\infty} \dfrac { (N!)^{n} \cdot n^{nN} } { (nN)! \cdot \sqrt{N}^{n-1} } . \end{align}
ステップ 2 (方法 A バージョン)
このステップでは, ステップ 1 の最後に置いた定数 が「示したい等式」の右辺と一致することを示します.
そのために, 以下の「スターリングの公式」を使います.
(おじちゃんに教えてもらった方法です.)
\begin{align} a_{N} := \dfrac {N! \cdot e^{N}} {N^{N} \cdot \sqrt{N}} . \end{align}
すると, は に収束する.
について, スターリングの公式から, 以下の等式が成り立ちます.
\begin{align} \lim_{N\to\infty} (a_{N})^{n} = (\sqrt{2\pi})^{n}. \end{align}
また, の倍数番目の項だけを取り出した数列 についても, スターリングの公式から, 以下の等式が成り立ちます.
\begin{align} \lim_{N\to\infty} a_{nN} = \sqrt{2\pi}. \end{align}
よって, 比の数列 について, 以下の等式が成り立ちます.
\begin{align} \lim_{N\to\infty} \dfrac{(a_{N})^{n}} {a_{nN}} = (\sqrt{2\pi})^{n-1} . \end{align}
したがって, 定数 は以下のように表せます.
\begin{align} C_{n} &= \dfrac{(a_{N})^{n}}{a_{nN}} \times \dfrac{1}{\sqrt{n}} \\ &= \dfrac{(\sqrt{2\pi})^{n-1}}{\sqrt{n}}. \end{align}
これは「示したい等式」の右辺と一致するので, 問題が解けました!
ステップ 2 (方法 B バージョン)
今度は, 別の方法で の値を計算します.
は定数関数なので, に何を代入しても同じ値を返します.
よって, 特に を代入すれば, 以下の等式が得られます.
\begin{align} C_{n} & = F_{n} \left( \dfrac{1}{n} \right) n^{n \cdot \tfrac{1}{n} - 1} \\ & = \dfrac{ \displaystyle \prod_{k=0}^{n-1} \Gamma \left( \dfrac{1}{n} + \dfrac{k}{n} \right) } { \Gamma \left( n \cdot \dfrac{1}{n} \right) } \\ & = \Gamma \left( \dfrac{1}{n} \right) \Gamma \left( \dfrac{2}{n} \right) \cdots \Gamma \left( 1 - \dfrac{2}{n} \right) \Gamma \left( 1 - \dfrac{1}{n} \right) . \end{align}
ここで, 以下の「相反公式」を用いて, 三角関数の問題に帰着させます.
の偶奇で場合分けして考えます.
n が奇数の場合
ある整数 を用いて, と表せます.
このとき, は以下のように表せます.
\begin{align} C_{n} & = \prod_{\ell = 1}^{m} \left( \Gamma \Big( \dfrac{\ell}{n} \Big) \Gamma \Big( 1-\dfrac{\ell}{n} \Big) \right) \\ & = \prod_{\ell=1}^{m} \dfrac{\pi}{\sin \dfrac{\ell}{n}\pi} \\ & = \dfrac{\sqrt{\pi}^{n-1}}{ \displaystyle \sqrt{ \prod_{\ell = 1}^{m} \sin \dfrac{\ell}{n}\pi } }\end{align}
分母の値を求めるために, 複素数 を次のように置きます.
\begin{align} \zeta := e^{2\pi \sqrt{-1} /n} = \cos \dfrac{2\pi}{n} + \sqrt{-1} \sin \dfrac{2\pi}{n} . \end{align}
の因数分解を考えることで, 次の等式が分かります.
\begin{align} (z-\zeta)(z-\zeta^{2}) \cdots (z- \zeta^{n-1}) = 1+z+z^{2}+\cdots +z^{n-1}. \end{align}
特に とすれば, 次の等式 (ア) が得られます.
各項 の値は以下のように計算できます.
(おじちゃんに計算方法を教えてもらいました.)
まず, ノルム を計算します:
\begin{align} | 1-\zeta^{\ell} |^{2} & = \left| 1 - \cos\dfrac{2\ell\pi}{n} - \sqrt{-1} \sin\dfrac{2\ell\pi}{n} \right|^{2} \\ & = \left( 1 - \cos \dfrac{2\ell\pi}{n} \right)^{2} + \sin^{2} \dfrac{2\ell\pi}{n} \\ & = 2 \left( 1-\cos\dfrac{2\ell\pi}{n}\right) \\ & = 4 \sin^{2} \dfrac{\ell\pi}{n} . \end{align}
このノルムの大きさから, 次の等式 (イ) が得られます.
以上の等式 (ア), (イ) から, の分母が計算できます:
\begin{align} \prod_{\ell = 1}^{n} \sin \dfrac{\ell}{n}\pi = \dfrac{n}{2^{n-1}}. \end{align}
よって, の値は以下のように求められます.
\begin{align} C_{n} & = \dfrac{ (\sqrt{2\pi})^{n-1} }{ \sqrt{n} } . \end{align}
これで, が奇数の場合に, が「示したい等式」の右辺と一致することが示せました!
n が偶数の場合
ある整数 を用いて, と表せます.
が奇数の場合と同じようにペアを作っていくと, 折り返し地点の項がひとつ余って, 以下のようになります.
\begin{align} C_{n} & = \left( \prod \Gamma \Big( \dfrac{\ell}{n} \Big) \Gamma \Big( 1-\dfrac{\ell}{n} \Big) \right) \times \Gamma \Big( \dfrac{m}{n} \Big) \\ & = \left( \prod \Gamma \Big( \dfrac{\ell}{n} \Big) \Gamma \Big( 1-\dfrac{\ell}{n} \Big) \right) \times \Gamma \Big( \dfrac{1}{2} \Big) . \end{align}
この最後の余った項 は, 相反公式で とすれば と分かります.
あとは, が奇数の場合と同じようにオリャーっと計算すれば, が「示したい等式」の右辺と一致することが示せます!
おわりに
ステップ 2 の方法 B を通して思ったことを少し語ります.
僕の思いついた方針は, 相反公式を用いて三角関数の問題に帰着させるところまでで, の値を求める方法が思いつかなくて詰んでいました.
なので, おじちゃんたちとおしゃべりしている時, 方法 B の方針を話すかどうか迷っていました.
でも, なんとなく話してみた方がいいんじゃないかという気がして, 話してみて, そしたらおじちゃんが の値の求め方を教えてくれました.
それで, その方針で最後まで解き切ることが出来て, 達成感と一体感が得られました.
自分的にはビミョーかな~と思っているアイデアでも, 人に話してみるとブラッシュアップされていい感じの成果につながることがあるということを経験できました.
小並感ですけど, 思いついたアイデアはどんどん発信した方がいいのかもなと思いました.
最後まで読んでいただきありがとうございました!