シン・ぱいおつ日記

ぱいおつが始まります

給付期間 ∞ の累加型確定年金の現価の求め方

こんにちは. 

ぱいです. 

 

今日はアクチュアリー記号の計算の話を書きます. 

早速ですが, 次のような条件をみたす年金を考えます. 

  • 予定利率 (※) : i 
  • 年金給付期間: \infty
  • 年金給付条件:被保険者の生死によらず給付する (確定年金)
  • 年金給付額 : t 年目の年度初めに年金額  t を給付する (累加年金)

(※) 予定利率が  i であるとは,「お客さんの払い込んだ保険料を 1 年後に  1+i 倍になるよう運用する」という意味です. 

 

↑ のような年金の現価 (※) を, アクチュアリー記号では  (I\ddot{a})_{\infty} と書きます. 

(給付期間  \infty の確定年金なんていう現実味皆無な概念に対して記号が用意されているのウケるw)

(※) 年金の現価とは,「予定利率  i で資金を運用しながらお客さんに年金を給付するためには, 年金給付開始時現在で資金をいくら用意しておけばいいか」を表すものです. 

 

この年金現価  (I\ddot{a})_{\infty} について, 今日は, 次の問題の解き方を 2 通り紹介します. 

問題予定利率が  i のとき,  (I\ddot{a})_{\infty} はいくらになるか?

 

目次

 

基本的な考え方

まず, 1 年目の年度初めに年金額 1 を給付するために給付開始時点で必要な資金を考えます.

これは簡単で, 当然, 必要な資金額は 1 です. 

 

次に, 2 年目の年度初めに年金額 2 を給付するために給付開始時点で必要な資金を考えます. 

予定利率  i で 1 年間資金を運用するので, 必要な資金額は  2 \cdot (1+i)^{-1} となります. 

 

今度は, 3 年目の年度初めに年金額 3 を給付するために給付開始時点で必要な資金を考えます. 

予定利率  i で 2 年間資金を運用するので, 必要な資金は  3 \cdot (1+i)^{-2} となります. 

 

この考え方を繰り返せば,  t 年目の年度初めに年金額  t を給付するために給付開始時点で必要な資金額は, それぞれ  t \cdot (1+i)^{-(t-1)} ずつとなることが分かります. 

現価の考え方

 

 (1+i)^{-1} が何回も登場して煩雑なので, 以下,  v = (1+i)^{-1} と置きます (※). 

つまり,  t 年目の分の年金を給付するために必要な資金額は, それぞれ  t v^{t-1} と表せます. 

(この  v を「現価率」と呼びます.)

 

 t = 1, \ 2, \ 3, \ \cdots として必要な資金たちを足せば,  (I\ddot{a})_{\infty} は次の級数で表せます. 

\begin{align} (I\ddot{a})_{\infty} = \sum_{t = 1}^{\infty} t v^{t-1} . \end{align}

僕の趣味で,  t=0 からスタートする方が好きなので,  t-1 をあらためて  t と置き直しておきます:

\begin{align} (I\ddot{a})_{\infty} = \sum_{t = 0}^{\infty} (t+1) v^{t} . \end{align}

 

以下, この級数の整理方法を 2 通り紹介します. 

 

方法 1

大学受験とかでよくやる「項をズラして引き算する」っていう方法を紹介します. 

 (I\ddot{a})_{\infty} と, 現価率  v をかけた  v (I\ddot{a})_{\infty} とを引き算します. 

すると, 次の画像のように, 各項が次々と良い感じにキャンセルされていきます. 

次々キャンセル

よって, 結局,  (I\ddot{a})_{\infty} は次のように表せます. 
\begin{align} (I\ddot{a})_{\infty} & = (1-v)^{-1} \left( 1 + v + v^{2} + v^{3} + \cdots \right) \\ & = (1-v)^{-2} \\ & = \left( \dfrac{i}{ \ 1+i \ } \right)^{-2}. \end{align}

 

方法 2

今度は, 二項定理を使う方法を紹介します. 

 

二項係数 (の一般化) を次の式で定めます. 

\begin{align} \binom{\alpha}{t} := \dfrac{ \ \alpha (\alpha - 1) \cdots (\alpha - t+1) \ }{t!} \quad ( \alpha \in \mathbb{C}, \ t \in \mathbb{Z}_{\geq 0} ) \end{align}

(今回,  \alpha \notin \mathbb{Z}_{\geq 0} の場合の二項定理を使いたいので,  \alpha \notin \mathbb{Z}_{\geq 0} を強調するために  {}_{n}\mathrm{C}_{k} じゃない記法を採用しました.) 

 

二項係数を用いれば,  (I\ddot{a})_{\infty} は次のように表せます. 

\begin{align} (I\ddot{a})_{\infty} & = \sum_{t = 0}^{\infty} (t+1)v^{t} \\ & = \sum_{t=0}^{\infty} \binom{t+1}{t} v^{t} \\ & = \sum_{t=0}^{\infty} \binom{-2}{t} (-1)^{t}v^{t} \\ & = \sum_{t=0}^{\infty} \binom{-2}{t} (-v)^{t}. \end{align}

よって, 二項定理を用いて, 次のように表せます. 

\begin{align} (I\ddot{a})_{\infty} = (1-v)^{-2}. \end{align}

 

昔この方法 2 を思いついて, ブログにいつか書こういつか書こうとずっと思ったまま放置していたのですが, 昨日二項定理の記事を書いたので丁度いい機会かなと思って書きました. 

最後まで読んでいただき, ありがとうございました!