シン・ぱいおつ日記

ぱいおつが始まります

cos1° や sin1° は有理数か?

こんにちは. 

ぱいです. 

 

京都大学の入試の過去問でこんな問題があります. 

京大の過去問 (2006年後期) \tan 1^{\circ}有理数か?
この過去問の解答例はいろんなサイトで解説され尽くしているので割愛します.
 \tan 1^{\circ}有理数かどうかを考えたら, 今度は  \cos 1^{\circ} \sin 1^{\circ} についても次のような問題を考えたくなるのが人間のサガだと思います. 
問題 \cos 1^{\circ} \sin 1^{\circ}有理数か?
この問題について, 代数的整数論を使ったスマートな解き方を思いついたので, その解き方を解説します. 
なお, 代数的整数論を知らない人にも分かるように解説しますので, 知らない人も安心して読んでください♪
 

 

注意: 記号についてこの記事では, 以下の記号を使います. 
 \mathbb{Z}: 整数全体の集合. 
 \mathbb{Q}: 有理数全体の集合. 
 \mathbb{C}: 複素数全体の集合. 
 \mathbb{Z}[t]: 整数係数の多項式全体の集合. 
 

(目次) 

 

第1節: 代数的整数論の準備

この節では, 冒頭の問題を解くために使う代数的整数論の準備をします. 

代数的整数論をすでに知っている人は読み飛ばして大丈夫です. 

 

まず, 通常の整数の特徴についておさらいしておきます. 

 a \in \mathbb{C} が整数となるための必要十分条件は, 当たり前ですが,  1 次の係数が  1 であるようなある  1多項式  f(t) \in \mathbb{Z}[t] に対して  f(a) = 0 となることです. 

 

整数のこの特徴を以下のように一般化したものが, 代数的整数です.  

代数的整数の定義 \alpha \in \mathbb{C}代数的整数であるとは, 最高次の係数が  1 であるようなある多項式  f(t) \in \mathbb{Z}[t] に対して  f(\alpha) = 0 となるときをいいます. 
( 1多項式じゃなくても,  2 次とか  3 次とか何次多項式でもOK)
代数的整数全体の集合を  \overline{\mathbb{Z}} で表します. 
 
代数的整数の例例えば,  e^{2\pi\sqrt{-1}/n} は代数的整数です.
実際,  f(t) = t^{n} + 1 に対して  f( e^{2\pi\sqrt{-1}/n}) = 0 となります. 
 
有理数は, 約分して分母を  1 にできる時 (つまり, 整数となる時) だけ代数的整数になります. 
よって, 有理数と代数的整数について, 以下の命題が成り立ちます. 
(この命題はあとで使います)
命題1: 有理数と代数的整数の関係\begin{align} \mathbb{Q} \cap \overline{\mathbb{Z}} = \mathbb{Z}. \end{align}
 

また, 2つの代数的整数が与えられたとき, それらの和について, 以下の命題が成り立ちます 

(この命題もあとで使います)

命題2: 代数的整数の和 \alpha, \beta \in \overline{\mathbb{Z}} なら,  \alpha + \beta \in \overline{\mathbb{Z}} となる. 
(証明)
 \alpha, \beta \in \overline{\mathbb{Z}} を任意に取ります. 
 \gamma = \alpha + \beta と置きます 
 
代数的整数の定義から, ある多項式  f(t), g(t) \in \mathbb{Z}[t] で  f(\alpha) = 0,  g(\beta) = 0 となります. 
 f(t),  g(t) の次数をそれぞれ  d,  e と置きます. 
集合  M を以下のように置きます. 
\begin{align} M = \left\{ \sum_{\substack{0 \leq i \leq d-1 \\ 0 \leq j \leq e-1}} c_{i,j} \,  \alpha^{i} \beta^{j} \ \middle| \ c_{i,j} \in \mathbb{Z} \right\}. \end{align}

この  M について,  \alpha M \subset M \beta M \subset M が成り立ちます. 

よって,  \gamma M \subset \alpha M + \beta M \subset M が成り立ちます. 

したがって, 任意の  p = 0,1,\dots ,d-1 q = 0,1,\dots ,e-1 に対して, 以下の等式をみたすような  c_{p,q,i,j} \in \mathbb{Z} が取れます: 

\begin{align} \gamma \alpha^{p} \beta^{q} = \sum_{\substack{0 \leq i \leq d-1 \\ 0 \leq j \leq e-1}} c_{p,q,i,j} \, \alpha^{i} \beta^{j}. \end{align}

つまり,  \alpha^{p} \beta^{q} たちを並べた  de 行ベクトルを  v と置いて,  c_{p,q,i,j} たちを並べた  de 次正方行列を  A と置けば, 以下の等式が成り立ちます. 

\begin{align} \gamma v = A v. \end{align}

よって,  \gamma A固有値となります. 

つまり,  A の固有多項式 h(t) と置けば,  h(\gamma) = 0 となります. 

したがって,  \gamma つまり  \alpha + \beta は代数的整数となります. ■

 

これで準備が整ったので, 冒頭の問題を解きます!

 

第2節: 問題の解答例

問題 (再掲) \cos 1^{\circ} \sin 1^{\circ}有理数か?
(解答例)

結論からいうと,  \cos 1^{\circ} \sin 1^{\circ}無理数となります. 

 

以下, 背理法を使って,  \cos 1^{\circ}無理数となることを示します. 

 

まず, オイラーの公式  e^{\sqrt{-1} \, \theta} = \cos \theta + \sqrt{-1} \sin \theta より,  \cos 1^{\circ} e について以下の関係が成り立ちます. 

\begin{align} 2 \cos 1^{\circ} = e^{2\pi\sqrt{-1} / 360} + e^{-2\pi\sqrt{-1} / 360}. \end{align}

 e^{2\pi\sqrt{-1} / 360} e^{-2\pi\sqrt{-1} / 360} はそれぞれ代数的整数なので, 命題 2 から, 和も代数的整数です. 

つまり,  2 \cos 1^{\circ} \in \overline{\mathbb{Z}} となります.  

 

さて,  \cos 1^{\circ}有理数だったと仮定します. 

有理数を2倍しても有理数のままなので,  2 \cos 1^{\circ} \in \mathbb{Q} となります. 

よって,  2 \cos 1^{\circ} \in \mathbb{Q} \cap \overline{\mathbb{Z}} となります. 

今, 命題 1 より  \mathbb{Q} \cap \overline{\mathbb{Z}} = \mathbb{Z} なので,  2\cos 1^{\circ} \in \mathbb{Z} となります. 

 \cos の取りうる範囲を考えると  -2 \leq 2 \cos 1^{\circ} \leq 2 です. 

この範囲にある整数は  0,  \pm 1,  \pm 2 だけなので, 以下の等式が得られます: 

\begin{align} 2 \cos 1^{\circ} = 0 \ \mathrm{or} \ \pm 1 \ \mathrm{or} \ \pm 2. \end{align}

ところが,  2 \cos 1^{\circ} はこれらのいずれの値も取らないので, 矛盾します. 

よって, 仮定は誤りで,  \cos 1^{\circ}無理数となります 

 

 \sin 1^{\circ}無理数となることも同様にして証明できます. ■

 

最後まで読んでいただきありがとうございました!