こんにちは.
ぱいです.
明けましておめでとうございます.
今年も数学の記事を書いていきますので, よろしくお願いいたします.
さて, 2023 年になったということで, 今年 1 発目の記事のテーマは「位数 2023 の群の分類」です!
つまり, 位数 2023 の群をすべて求めます!
なお, 途中で大阪大学の大学院入試の問題にも触れますので, 学部 4 年生の人たちは参考になるかもしれません.
を位数 2023 の群とします.
下記目次の 6 つのステップに沿って, の構造としてあり得るものをすべて求めます.
(冒頭に述べた阪大の院試の話が関わるのは, ステップ 5 です.)
ステップ 1 は一般的な群論の話なので, 群論に詳しい人は読み飛ばして大丈夫です.
なお, 結果を先に述べておきます.
(ネタバレ防止 (?) で透明の字にしておくので, ドラッグすると読めます. スマホだとうまく表示されないかも.)
位数 2023 の群は, と の 2 個ですべてです.
目次
- ステップ 1: 群論の準備
- ステップ 2: シロー 7 部分群とシロー 17 部分群の個数を求める
- ステップ 3: シロー 7 部分群とシロー 17 部分群を用いて G を表す
- ステップ 4: シロー 7 部分群の構造をすべて求める
- ステップ 5: シロー 17 部分群の構造をすべて求める
- ステップ 6: G の構造をすべて求める
- オマケ: 阪大の院試 (2019年度) の問題
ステップ 1: 群論の準備
このステップでは, 位数 2023 の群の構造を求めるための準備として, 有限群論の基本的な道具を整理します.
まず, 群の位数について基本的な定理を 2 個紹介します.
すると, の位数 は の位数 の約数となる.
(証明)
剰余類に注目して, いわゆる羊飼いの原理を使えばいいです. ■
すると, の位数 と の位数 について, 次の等式が成り立つ.
\begin{align} |HK| \cdot |H \cap K| = |H| \cdot |K|. \end{align}
(証明)
写像 を で定めます.
任意の , に対して, の逆像は下記のとおりに表せます.
\begin{align} f^{-1} (hk) = \left\{ (hx, x^{-1}k) \in H {\times} K \ \middle| \ x \in H \cap K \right\} . \end{align}
これを踏まえて, いわゆる羊飼いの原理を使えばいいです. ■
次に, 正規部分群による群の直積分解について紹介します. (線形空間の直和分解の類似.)
このとき, かつ ならば, 次の同型が成り立つ.
\begin{align} G \cong N {\times} K. \end{align}
(証明)
写像 を で定めます.
すると, この は同型写像となります. ■
次に, 「シロー 部分群」を定義して, シローの定理を紹介します.
の位数を ( は素数, は整数で, は と互いに素な整数) とする.
このとき, が の「シロー 部分群」であるとは, 下記の条件 2 点が成り立つときをいう.
- の位数は である.
- のどんな部分群 に対しても, は の部分群とならない. (ただし のケースを除く.)
整数 を次の式で定める.
\begin{align} n(p,G) = \# \{ H \subset G \ | \ H \ は\ G \ のシロー \, p \, 部分群となる\} . \end{align}すると, 下記 4 点が成り立つ.
(証明)
長くなるので割愛します.
詳細は, 例えば下記の参考文献の第 3 章「Action and Conjugation」などをご参照ください.
参考文献 : H. Kurzweil and B. Stellmacher, The Theory of Finite Groups, Springer (2004). ■
最後に, 群の構造を求めるのに役立つ強力な定理を紹介します.
すると, 下記の条件 2 点をみたすような整数 , , …, が存在する.
- .
- .
(証明)
長くなるので割愛します.
詳細は, 例えば下記の参考文献の第 2 章「Abelian Groups」などをご参照ください.
参考文献 : H. Kurzweil and B. Stellmacher, The Theory of Finite Groups, Springer (2004). ■
ステップ 2: シロー 7 部分群とシロー 17 部分群の個数を求める
2023 を素因数分解すると, となります.
これを踏まえて, このステップでは, を位数 2023 の群とし, のシロー 7 部分群およびシロー 17 部分群の個数を求めます.
に対して, シロー 部分群の個数を で表します.
まず, シロー 7 部分群の個数 について.
定理 5 (シローの定理) の 1 番より, です.
一方, 定理 5 (シローの定理) の 2 番より, です.
よって, となります.
同様に, シロー 17 部分群の個数も となります.
これでステップ 2 はおしまいです.
ステップ 3: シロー 7 部分群とシロー 17 部分群を用いて G を表す
このステップの目標は, ステップ 1 の定理 3 を利用して, シロー 7 部分群およびシロー 17 部分群を用いて を表すことです.
ステップ 2 を踏まえて, の唯一のシロー 7 部分群を と置き, の唯一のシロー 17 部分群を と置きます.
定理 5 (シローの定理) の 3 番より, と はいずれも の正規部分群です.
よって, 定理 5 (シローの定理) の 4 番より, は のシロー 17 部分群となります.
今, の位数は なので, のシロー 17 部分群は だけです.
以上から, となります.
よって, 定理 2 より, となります.
したがって, が成り立ちます.
以上から, , は定理 3 の条件をみたします.
よって, は と表せます.
これでステップ 3 はおしまいです.
ステップ 4: シロー 7 部分群の構造をすべて求める
このステップの目標は, の唯一のシロー 7 部分群 に対して, の構造としてあり得るものをすべて求めることです.
を任意に取ります. (ただし とします.)
の生成する巡回群を と置きます.
定理 1 (ラグランジュの定理) より, の位数 は の約数です.
よって, となります.
したがって, となります.
つまり, となります.
これでステップ 4 はおしまいです.
ステップ 5: シロー 17 部分群の構造をすべて求める
このステップの目標は, の唯一のシロー 17 部分群 に対して, の構造としてあり得るものをすべて求めることです.
の正規部分群 を下記の式で定めます.
\begin{align} Z(K) = \{ z \in K \ | \ どの \, k \in K \, に対しても \, kz = zk \, となる \} . \end{align}(この を の「中心群」といいます.)
定理 1 (ラグランジュの定理) より, の位数は です.
よって, 剰余群 の位数は となります.
したがって, ステップ 4 と同様に, 剰余群 は巡回群となります.
以下, がアーベル群となることを示します.
を任意に取ります.
を, 巡回群 の生成元の代表とします.
すると, ある元 とある整数 を用いて, および は次のように表せます.
\begin{align} k_{1} = z_{1} x^{m_{1}}, \quad k_{2} = x^{m_{2}} . \end{align}よって, 積 について次の等式が成り立ちます.
\begin{align} k_{1} k_{2} = z_{1} x^{m_{1}} z_{2} x^{m_{2}} = z_{2} x^{m_{2}} z_{1} x^{m_{1}} . \end{align}以上から, はアーベル群となります.
以上から, は位数 のアーベル群となります.
よって, の構造は下記のように表せます.
\begin{align} K \cong (\mathbb{Z} / 289 \mathbb{Z}), \ (\mathbb{Z} / 17 \mathbb{Z}) {\times} (\mathbb{Z} / 17 \mathbb{Z}). \end{align}
これでステップ 5 もおしまいです.
ステップ 6: G の構造をすべて求める
ここまでのステップを整理すると, 下記 3 点の状況が成り立っています.
- .
- .
- .
よって, の構造としてあり得るものは, 下記の 2 個ですべてとなります.
\begin{align} G \cong (\mathbb{Z} / 7 \mathbb{Z}) {\times} (\mathbb{Z} / 289 \mathbb{Z}), \ (\mathbb{Z} / 7 \mathbb{Z}) {\times} (\mathbb{Z} / 17 \mathbb{Z}) {\times} (\mathbb{Z} / 17 \mathbb{Z}). \end{align}
これで, 位数 2023 の群の構造をすべて求めることが出来ました!
わーい!
オマケ: 阪大の院試 (2019年度) の問題
余談ですが, 阪大数学科の 2019 年度大学院入試で下記のような問題が出題されました. (自分の受験した年度なので印象に残ってる.)
この問題は, 上記のステップ 5 と同じように考えれば解けます.
受験生の方の参考になれば幸いです♪
は素数, は正の整数とする. を位数が の群とし, を の中心, すなわち
\begin{align} Z = \{ g \in G \ | \ gh = hg, \ \forall h \in G \} \end{align}とするとき, 以下の問いに答えよ.
- は, 単位群でない の正規部分群であることを示せ.
- 剰余群 が巡回群ならば, は可換群であることを示せ. また, このことを用いて, のとき は可換群であることを示せ.
- のとき, を適当に選んで, 可換群でないような の具体例をひとつ挙げよ.
(出典: 2019 年度 大阪大学大学院 理学研究科 数学専攻 院試)
最後まで読んでいただき, ありがとうございました!
皆さん, 素敵な 1 年をお過ごしください!