シン・ぱいおつ日記

ぱいおつが始まります

平方数からなる長さ 4 の等差数列の話

こんにちは. 

ぱいです. 

 

先日, むぐむぐ勉強会*1にて全 3 回にわたりセミナー「素数が無限個存在することのいろいろな証明を味わおう!」を開きました. 

詳細は以下のツイートをご参照ください. 

 

 

さて, そのセミナーの第 3 回の「証明その 18」で以下の定理 1 を用いました. 

定理 1以下の両方をみたすような長さ 4 の数列  \{ a_{n} \} は存在しない. 
  •  a_{1},  a_{2},  a_{3},  a_{4} は等差数列をなす. (公差 > 0)
  •  a_{1},  a_{2},  a_{3},  a_{4} はすべて平方数である. 

 

時間の都合上, セミナーの中でこの定理 1 の証明を省略しました. 

そこで, 今日はこの定理 1 の証明を書きます. 

なお, 初等的な方法で証明するため予備知識は要らないので安心してください. 

 

【目次】

 

 

1. 数列  a_{n} に含まれる奇数の個数についての補題

この節では, 以下の補題 2 を証明します. 

(補題 2 は定理 1 の証明に使います.)

補題 2以下の両方をみたすような長さ 4 の数列  \{ a_{n} \} たち全体のなす集合を  \mathcal{A} とおく. 
  •  a_{1},  a_{2},  a_{3},  a_{4} は等差数列をなす. (公差 > 0)
  •  a_{1},  a_{2},  a_{3},  a_{4} はすべて平方数である. 

任意の  \{ a_{n} \} \in \mathcal{A} に対して,  N(a_{n}) を以下で定める. 
\begin{align} \ N(a_{n}) = a_{1}, a_{2}, a_{3}, a_{4} \ \mbox{のうちの奇数の個数} \end{align}このとき,  \mathcal{A} \neq \emptyset なら, 以下の両方をみたすような数列  \{ a_{n} \} \in \mathcal{A} が取れる. 

  •  N(a_{n}) = 4 である. 
  •  a_{1},  a_{2},  a_{3},  a_{4} たちの最大公約数は  1 である. 

(証明)

 \mathcal{A} \neq \emptyset とします. 

以下の 4 つのステップを踏み補題 2 の主張を証明します. 

  • ステップ 1 :  \{ a_{n} \} \in \mathcal{A} \Rightarrow N(a_{n}) = 0, 4  を示す. 
  • ステップ 2 :  \{ a_{n} \} \in \mathcal{A} \Rightarrow \mbox{公差} \equiv 0 \bmod 4  を示す. 
  • ステップ 3 :  N(a_{n}) = 4 なる数列  \{ a_{n} \} \in \mathcal{A} が取れることを示す. 
  • ステップ 4 :  N(a_{n}) = 4 かつ  a_{n} たちの最大公約数が  1 であるような数列  \{ a_{n} \} \in \mathcal{A} が取れることを示す. 

 

■ ステップ 1

 \{ a_{n} \} \in \mathcal{A} を任意に取り, 各項を以下のとおりに置きます. ( d > 0)

  •  a_{1} = r^{2} = a
  •  a_{2} = s^{2} = a+d
  •  a_{3} = t^{2} = a+2d
  •  a_{4} = u^{2} = a+3d

 N(a_{n}) = 0, 4 となることを背理法で示します. 

つまり,  N(a_{n}) = 1, 2, 3 だったと仮定して矛盾を導きます. 

 

 N(a_{n}) = 1 だった場合】

 a_{1} が唯一の奇数だったとします. 

このとき,  a_{3} = a_{1} + 2d より  a_{3} も奇数となり,  N(a_{n}) = 1 に矛盾します. 

 a_{2},  a_{3},  a_{4} が唯一の奇数だったとしても同様に矛盾が導けます. 

 

 N(a_{n}) = 2 だった場合】

奇数のペアの候補は  (a_{1}, a_{3}) (a_{2}, a_{4}) のみです. 

 (a_{1}, a_{3}) が奇数のペアのとき,  a_{2} = a_{1} + d は偶数なので,  d は奇数となります. 

一方,  a_{2},  a_{4} は偶数かつ平方数ゆえ  4 の倍数なので,  2d = a_{4} - a_{2} 4 の倍数となります. 

つまり,  d は偶数となり, 矛盾します. 

 (a_{2}, a_{4}) が奇数のペアのときも同様に矛盾が導けます. 

 

 N(a_{n}) = 3 だった場合】

 N(a_{n}) = 1 だった場合と同様に矛盾が導けます. 

 

以上から,  N(a_{n}) = 1, 2, 3 のいずれの場合にも矛盾が生じるので, 必ず  N(a_{n}) = 0, 4 となることが示せました!

これでステップ 1 は完了です!

 

■ ステップ 2

 \{ a_{n} \} \in \mathcal{A} を任意に取り, 各項を以下のとおりに置きます. ( d > 0)

  •  a_{1} = r^{2} = a
  •  a_{2} = s^{2} = a+d
  •  a_{3} = t^{2} = a+2d
  •  a_{4} = u^{2} = a+3d

ステップ 1 の結果から  N(a_{n}) = 0, 4 なので,  r \equiv s \ \bmod 2 となります. 

よって, 

\begin{align} \ d = s^{2} - r^{2} = (s+ r)(s - r) \equiv 0 \ \bmod 4 \end{align}となります. 

これでステップ 2 は完了です!

 

■ ステップ 3

 \{ a_{n} \} \in \mathcal{A} を任意に取り, 各項を以下のとおりに置きます. ( d > 0)

  •  a_{1} = r^{2} = a
  •  a_{2} = s^{2} = a+d
  •  a_{3} = t^{2} = a+2d
  •  a_{4} = u^{2} = a+3d

 N(a_{n}) \neq 4 のとき (つまり  N(a_{n}) = 0 のとき) は, 以下の手順で  N(b_{n}) = 4 の数列  \{ b_{n} \}\in \mathcal{A} を構成できます. 

 

まず,  a_{1} は偶数かつ平方数ゆえ  4 の倍数なので,  a_{1} = 4a' と表せます. 

また, ステップ 2 の結果から  d = 4d' と表せます. 

これらの  a',  d' に対して,  \{ a'_{n} \} を以下のとおり置きます. 

  •  a'_{1} = a'
  •  a'_{2} = a'+d'
  •  a'_{3} = a'+2d'
  •  a'_{4} = a'+3d'

すると,  a'_{n} = a_{n} / 4 より  \{ a'_{n} \} \in \mathcal{A} となります. 

このように新しい数列を作る操作を  a' \not\equiv 0 \ \bmod 4 となるまで繰り返して得られる数列を  \{ b_{n} \} \in \mathcal{A} と置けば,  N(b_{n}) = 4 となります. 

 

これでステップ 3 は完了です!

 

■ ステップ 4

ステップ 3 より,  N(a_{n}) = 4 であるような数列  \{ a_{n} \} \in \mathcal{A} が取れます. 

 a_{n} たちは平方数なので,  p a_{n} の素因数ならば  p^{2} a_{n} の約数となります.  

よって,  a_{n} たちの最大公約数  g に対して  b_{n} = a_{n} / g とおけば,  \{ b_{n} \} \in \mathcal{A} かつ  N(b_{n}) = 4 かつ  b_{n} たちの最大公約数は  1 となります. 

 

これで補題 2 が証明できました!

 

2. 定理 1 の証明

この節では, 前の節の補題 2 を用いて冒頭の定理 1 に証明を与えます. 

定理 1 (再掲)以下の両方をみたすような長さ 4 の数列  \{ a_{n} \} は存在しない. 
  •  a_{1},  a_{2},  a_{3},  a_{4} は等差数列をなす. (公差 > 0)
  •  a_{1},  a_{2},  a_{3},  a_{4} はすべて平方数である. 

(証明)

背理法と無限降下法を組み合わせて証明します. 

 

定理の主張の条件 2 つを両方みたすような数列  \{ a_{n} \} たち全体のなす集合を  \mathcal{A} とおきます. 

任意の  \{ a_{n} \} \in \mathcal{A} に対して,  N(a_{n}) を以下で定めます. 
\begin{align} \ N(a_{n}) = a_{1}, a_{2}, a_{3}, a_{4} \ \mbox{のうちの奇数の個数} \end{align}

 \mathcal{A} \neq \emptyset だったと仮定します. 

すると, 補題 2 より,  N(a_{n}) = 4 かつ  a_{n} たちの最大公約数が  1 であるような数列  \{ a_{n} \} \in \mathcal{A} が取れます. 

 

補題 2 の証明のステップ 2 より  \{ a_{n} \} の公差は  4n と表せます. 

よって,  \{ a_{n} \} の算術平均を  x と置けば, 各項  a_{n} たちは以下のように表せます. 

  •  a_{1} = x - 6n
  •  a_{2} = x - 2n
  •  a_{3} = x + 2n
  •  a_{4} = x + 6n

 a_{n} が平方数であることを踏まえて,  a_{n} たちの積を  y^{2} = a_{1} a_{2} a_{3} a_{4} と置きます. 

すると, 

\begin{align} \ y^{2} &= (x-6n)(x-2n)(x+2n)(x+6n) \\ &= (x^{2} - 20n^{2})^{2} - (16n^{2})^{2} \end{align}

つまり

\begin{align} \ (16n^{2})^{2} + y^{2} = (x^{2} - 20n^{2})^{2} \end{align}が成り立ちます.  

 

さて, この方程式  (16n^{2})^{2} + y^{2} = (x^{2} - 20n^{2})^{2} に対して, 以下の操作を施します. 

 

【操作】

 16n^{2},  y,  x^{2} - 20n^{2} が Pythagorean 数であることから, ある整数  u, v \in \mathbb{Z} が存在して以下の式 (1), …, (4) が成り立ちます. 

  • (1)  4uv = 16n^{2}
  • (2)  4u^{2} - v^{2} = \pm y
  • (3)  4u^{2} + v^{2} = x^{2} - 20n^{2}
  • (4)  v は奇数

式 (1), (4) より  u 4 の倍数かつ  u,  v は平方数となります.

よって, ある整数  U, V \in \mathbb{Z} が存在して, 以下の (5), …, (7) が成り立ちます. 

  • (5)  u = 4U^{2}
  • (6)  v = V^{2}
  • (7)  n^{2} = U^{2}V^{2}

なお, この操作を逆に辿れば公差  4n \ (=4UV) の数列  \{ a_{n} \} \in \mathcal{A} を復元できることに注意しておきます. 

 

さて, 式 (3) と式 (5), …, (7) より  4u^{2} + v^{2} = x^{2} - 5uv です. 

これを整理して  (4u+v) (u+v) = x^{2} が成り立ちます. 

よって,  u+v は平方数となります. 

つまり, ある  Y \in \mathbb{Z} を用いて  u + v = Y^{2} と表せます. 

式 (5) も併せれば,  4U^{2} + V^{2} = Y^{2} が成り立ちます. 

 

 4U^{2} + V^{2} = Y^{2} に対して上記と同様の操作を施します. 

すると,  4u'^{2} + v'^{2} 16u'^{2} + v'^{2} が共に平方数であるような  u', v' \in \mathbb{Z} が取れて, 公差  4u'v' の数列  \{ a'_{n} \} \in \mathcal{A} が作れます. 

 

これを繰り返せば,  \mathcal{A} の元のうち公差のいくらでも小さなものが作れて矛盾します. 

よって, 仮定  \mathcal{A} \neq \emptyset は誤りと分かり,  \mathcal{A} = \emptyset が証明できました!

やったー

 

3. おまけ (代数体上への拡張の話)

この記事では定理 1 を初等的に証明しましたが, 楕円曲線に関する理論を用いた証明も知られているようです*2

 

また, 楕円曲線を考えれば, 以下の定理 3 (定理 1 の代数体  K 上の類似) も示せるらしいです*3

定理 3代数体  K を任意に取り固定する. 
以下の両方をみたすような  K 上の数列  \{ a_{n} \} の長さの上限を  S とおく. 
  •  \{ a_{n} \} は等差数列をなす. (公差 > 0)
  •  a_{n} たちはすべて平方数である. 

このとき,  S は代数体  K の次数  [ K : \mathbb{Q} ] にのみ依存する定数となる. 

 

なお, 僕は楕円曲線のことをほとんど何も知らないので, 詳しい証明方法はよく分かっていないです. 

誰か詳しい方, 教えてください…!

 

むぐむぐ勉強会で楕円曲線の勉強会に参加する予定だから, そのうち定理 3 の証明とかも読めるようになるのかな. 

ワクワクしています. 

 

尻切れトンボな終わり方になってしまいましたが, 最後まで読んでいただきありがとうございました!

*1:Discord のサーバー. 数理系の自主ゼミがたくさん開催されています.

*2:H. Knaf, E. Selder, and K. Spindler, Four Rational Squares in Arithmetic Progression and a Family of Elliptic Curves with Positive Mordell-Weil Rank, Math Semesterber 67 (2020), pp.213-236.

*3:X. Xarles, Squares in Arithmetic Progression over Number Fields, Journal of Number Theory, Volume. 132, Issue 3 (2012), pp.379-389