シン・ぱいおつ日記

ぱいおつが始まります

大学入試問題と群論入門 (京府医2001)

こんにちは. 

ぱいです. 

 

大学入試の季節ですね. 

今日は, 下記の入試問題を解説します. 

 

問題

 0 でない複素数からなる集合  G は次を満たしているとする。

\begin{align} G\, の任意の要素 \, z、w \, の積 \, zw \, は再び \, G \, の要素である\end{align}

 n を正の整数とする。

このとき、

(1) ちょうど  n 個の要素からなる  G の例をあげよ。

(2) ちょうど  n 個の複素数からなる  G は (1) の例以外にないことを示せ。

(出典: 京都府立医科大学 2001 年度入試問題) 

 

さっそく解答例の概略を述べます. 

 

<解答例の概略>

(1)  G = \{ e^{2 \pi i y / n} \ | \ y = 0, 1, \cdots, \ n-1 \}

(2)  z \in G を好きに取ると,  G は次のようにも表せる. 

\begin{align} G = \{ gz \ | \ g \in G \}. \end{align}

よって, 両辺の要素たちの積について, 下記の等式が成り立つ. 

\begin{align} (G \, のすべての要素の積) = (\{ gz \ | \ g \in G \} \, のすべての要素の積). \end{align}これを整理すると,  z^{n} = 1 が得られる. 

したがって,  G は必ず下記の式で表せることが分かる. 

\begin{align} G &= \{ z \ | \ z^{n} = 1 \} \\ &= \left\{ e^{2 \pi i y / n} \ \middle| \ y = 0, 1, \dots, n-1 \right\}. \end{align}

<解答例の概略おしまい>

 

こんなん知識ゲーやん!!!

思いつくか思いつかへんかだけで点差出てまうやんけ!!

悪問やないか!!!!!

 

と思ったそこのあなたに, 朗報です. 

 

この記事を読めば, (1) の集合の自然な求め方や (2) の証明の自然さが分かるようになります!

しかも!

その過程で群論に入門できて, 準同型定理や群の作用の基本が身に付きます!!

 

※この記事の内容は, 他の入試問題へあまり応用できないと思います. 

そのため, 受験生の方が読まれる場合には, ただの息抜き程度に軽い気持ちで楽しんでいただければ幸いです. 

 

 

(目次)

 

第1章 集合Gの性質と群の定義

この章では, 問題を解くための準備として, 集合  G の性質を観察します. 

また, 群の定義を述べ, 身近な群の具体例を紹介します. 

 

まず,  z \in G を好き勝手に取り, 数列  \{ z^{m} \} を観察してみましょう. 

ただし, 番号  m は負の値も許した整数とします. 

 

☆観察 (ア)

 G は有限集合なので,  \{ z^{m} \} は有限個の値しか取りません. 

よって, ある番号  m,  k z^{m} = z^{k} となります. 

この両辺を  z^{k} で割れば  z^{m-k} = 1 となります. 

したがって,  1 \in G が成り立ちます. 

 

☆観察 (イ)

また, この  m,  k について,  z \cdot z^{(m-k)-1} = 1 が成り立ちます. 

この両辺を  z で割れば,  1 / z = z^{m-k-1} が得られます. 

よって,  1/z \in G が成り立ちます. 

 

上記の観察の結果を整理しておきます. 

観察 (ア), (イ) の結果
  •  1 \in G が成り立つ. 
  • どの  z \in G に対しても,  1/z \in G が成り立つ. 

 

さて, 一般に,  G と似たような性質を持つ空間で「群」と呼ばれる概念があります. 

群の定義を述べます. 

群の定義

 \Gamma を集合とし,  B(x,y) を2変数関数とします. ( x,y \in \Gamma)

このとき, 次の 1 ~ 4 が成り立てば, 「組 ( \Gamma,  B) は である」といいます. 

  1. どの要素  x, y \in \Gamma に対しても,  B(x,y) \in \Gamma が成り立つ. 
  2. どの要素  x, y, z \in \Gamma に対しても,  B(x,B(y,z)) = B(B(x,y),z) が成り立つ. 
  3. ある要素  \varepsilon \in \Gamma が存在して, どんな  x \in \Gamma に対しても,  B(x, \varepsilon) = B(\varepsilon, x) = x が成り立つ. (この  \varepsilon単位元 と呼びます.)
  4. どの要素  x \in \Gamma に対しても, ある要素  y \in \Gamma が存在して,  B(x,y) = B(y,x) = \varepsilon が成り立つ. 

 

 \Gamma = G,  B(x,y) = xy と置けば, 1 番と 2 番が成立することがすぐに分かります. 

また,  \varepsilon = 1 と置けば, 上記の観察 (ア), (イ) より, 3 番と 4 番も成り立つことが分かります. 

よって, 組 ( G,  B) は群をなします!

 

他にも群の典型的な例を 2 つ紹介しておきます. 

群の例 1

と置くと, 組 ( \Gamma,  B) は群をなします. 

この群を, 複素数の加法群と呼びます. 

以下, 複素数の加法群を ( \mathbb{C}^{+},  B^{+}) で表すことにします. 

群の例 2

と置くと, 組 ( \Gamma,  B) は群をなします. 

この群を, 複素数の乗法群と呼びます. 

以下, 複素数の乗法群を ( \mathbb{C}^{\times},  B^{\times}) で表すことにします. 

 

( \mathbb{C}^{+},  B^{+}) と ( \mathbb{C}^{\times},  B^{\times}) との関係を見てみましょう. 

 

1 変数関数  f(z) = e^{z} ( z \in \mathbb{C}^{+}) を用いると, 次の等式が成り立ちます. 

\begin{align} \mathbb{C}^{\times} = \big\{ f(z) \ \big| \ z \in \mathbb{C}^{+} \big\}. \end{align}しかも,  f(z+w) = e^{z} \cdot e^{w} が成り立ちます. 

つまり,  f \big( B^{+}(z,w) \big) = B^{\times} (z,w) が成り立ちます. 

よって, 関数  f を用いることで, ( \mathbb{C}^{+},  B^{+}) の世界の計算は ( \mathbb{C}^{\times},  B^{\times}) の世界の計算に置き換え可能となります!

 

関数  f(z) = e^{z} の代わりに別の関数  f_{c} (z) = e^{cz} ( c \neq 0) を用いても, まったく同じことが言えます. 

なぜなら, オイラーの公式  e^{i\theta} = \cos \theta + i \sin \theta より 

\begin{align} f_{c} (x+iy) = e^{cx} (\cos cy + i \sin cy) \end{align}だからです. 

 

以下, 関数  f_{c} (z) = e^{cz} を用いて, ( \mathbb{C}^{+},  B^{+}) と ( \mathbb{C}^{\times},  B^{\times}) との対応を考察します. 

 

 \mathbb{C}^{+} において,  z \in \mathbb{C}^{+} の実部と虚部を

\begin{align} \mathrm{Re} (z) = 0, \quad \mathrm{Im}(z) = 整数 \end{align}に制限した集合を  \mathbb{Z}^{+} と置きます. 

つまり, 

\begin{align} \mathbb{Z}^{+} &= \{ z \in \mathbb{C}^{+} \ | \ \mathrm{Re} (z) = 0, \ \mathrm{Im} (z) = 整数 \} \\ &= \{ 0 + iy \in \mathbb{C}^{+} \ | \ y = 整数 \} \end{align}です. 

 

関数  f_{c} によって  \mathbb{Z}^{+} に対応する集合を,  S と置きます. 

つまり, 

\begin{align} S &= \{ f_{c} (z) \in \mathbb{C}^{\times} \ | \ z \in \mathbb{Z}^{+} \} \\ &= \{ \cos cy + i \sin cy \in \mathbb{C}^{\times} \ | \ y = 整数 \} \end{align}です. 

 

ここまでの状況を, 図で整理しておきます: 

 

第2章 (1)の解答例と準同型定理

この章では, 問題 (1) の解答例を述べます. 

 
問題 (1) の解答方針

まず,  \mathbb{Z}^{+} ( \subset \mathbb{C}^{+}) の世界の方で「要素  n 個の群」を作る. 

その後, 関数  f_{c} を使って  \mathbb{C}^{\times} の世界へ対応させることによって,  G を得る!

 

 \mathbb{Z}^{+} の世界に存在する「要素  n 個の群」は, じつは中学・高校で既に習っています. 

その正体は, 合同式 です!

 

集合  \mathbb{Z} / n \mathbb{Z} を下記の式で定めます. 

\begin{align} \mathbb{Z} / n \mathbb{Z} = \{ y \ \bmod \ n \ | \ y \in \mathbb{Z}^{+} \}. \end{align}

 

新しい関数  \alpha (y) \alpha (y) = y \ \bmod \ n と置くと,  \mathbb{Z} / n \mathbb{Z} は次の式で表せます. 

\begin{align} \mathbb{Z} / n \mathbb{Z} = \{ \alpha (y) \ | \ y \in \mathbb{Z}^{+} \}. \end{align}

 

組 ( \mathbb{Z} / n \mathbb{Z},  B^{+}) は, 要素  n 個の群となっています. 

よって, 関数  f_{c}(z) = e^{cz} を用いて  \mathbb{C}^{\times} の世界のほうへ移してやれば, 題意の群 ( G,  B^{\times}) が得られます!

つまり,  G は下記の式で表せます!

\begin{align} G = \{ f_{c} (y) \ | \ y = 0, 1, \dots, n-1 \}. \end{align}

ここまでの状況を図で整理しておきます: 

 

 G をもっと具体的に表すために, 以下,  c の値を求めます. 

2 つの群 ( \mathbb{Z} / n \mathbb{Z},  B^{+}), ( G,  B^{\times}) において, それぞれの単位元に注目してみましょう. 

(復習: 単位元とは, どの  x \in \Gamma に対しても  B(x,\varepsilon) = x となるような  \varepsilon \in \Gamma のことです. cf. 第1章の群の定義の3番.) 

 

群 ( \mathbb{Z} / n \mathbb{Z},  B^{+}) において,  y \in \mathbb{Z} / n \mathbb{Z}単位元となるための必要十分条件を求めると, 下記のとおりになります. 

\begin{align} \alpha (y) \equiv 0 \ \bmod n \ &\Longleftrightarrow \ y \equiv 0 \ \bmod n \\ &\Longleftrightarrow \ y \, は \, n \, の倍数 \end{align}

 

一方, 群 ( G,  B^{\times}) において,  f_{c}(y) \in G単位元となるための必要十分条件を求めると, 下記のとおりになります. 

\begin{align} f_{c} (y) = 1 \ &\Longleftrightarrow \ e^{icy} = 1 \\ &\Longleftrightarrow \ cy \, は \, 2\pi \, の倍数 \\ &\Longleftrightarrow \ y \, は \, 2\pi / c \, の倍数 \end{align}

 

今, 2 つの群 ( \mathbb{Z} / n \mathbb{Z},  B^{+}), ( G,  B^{\times}) は関数  f_{c}(y) を介して対応している ので, 両者の単位元について下記が成り立ちます. 

\begin{align} y \equiv 0 \ \bmod n \ \Longleftrightarrow \ f_{c} (y) = 1 \end{align}

 

以上から, 下記が成り立ちます. 

\begin{align} y \, が \, n \, の倍数 \ \Longleftrightarrow \ y \, が \, 2\pi / c \, の倍数 \end{align}

よって,  2\pi / c = n , つまり,  c = 2\pi / n が成り立ちます. 

したがって,  G は下記の式で表せます!

\begin{align} G &= \left\{ f_{2 \pi / n } (y) \ \middle| \ y = 0, 1, \dots, n-1 \right\} \\ &= \left\{ e^{2\pi i y / n } \ \middle| \ y = 0, 1, \dots, n-1 \right\} \end{align}

((1) の解答例おわり)

 

上記の (1) の解答例の最後の部分で鍵となったのは, 関数の出力値が単位元となるような状況の観察でした. 

一般の群論においても, そのような観察はよく行われます. 

そこで, 与えられた群 ( \Gamma,  B) と関数  f に対して 下記の式で定める集合  \ker f を導入しておくと便利です. 

\begin{align} \ker f = \left\{ x \in \Gamma \ | \  f(x) = \varepsilon' \right\}. \end{align}(※)  \varepsilon' \{ f(x) \ | \ x \in \Gamma \} における単位元とします. 

 

この集合  \ker f を用いると, (1) の解答例の内容はスッキリと一般化できます. 

その一般化した結果が, 下記のいわゆる 準同型定理 です. 

準同型定理
  • 群 ( \Gamma,  B) と関数  f (x) ( x \in \Gamma) が与えられたとする. 
  • どの  x,y \in \Gamma に対しても,  f \big( B(x,y) \big) = B \big( f (x), f (y) \big) が成り立つとする. 
  • 集合  G G = \{ f (x) \ | \ x \in \Gamma \} とおく.
  •  G は群をなすとする. 

すると, (記号の濫用を許せば)  G は下記のように表せる. 

\begin{align} G = \{ x \ \bmod \ker f \ | \ x \in \Gamma \}. \end{align}

(脱線になるので, 証明は省略します.)

 

第3章 (2)の解答例と群の作用

この章では, (2) の解答例を述べます. 

「群の作用」と呼ばれる概念を使うとスッキリ解けるので, まず, 「群の作用」を導入します. 

 

群の作用の定義

( \Gamma,  B) を群とし,  X を集合とします. 

また,  A(g,x) を2変数関数とします. ( g \in \Gamma,  x \in X)

このとき, 下記の 1 ~ 3 が成り立てば, 「 A は群 ( \Gamma,  B) の集合  X への 作用 である」といいます. 

  1. どの  g \in \Gamma x \in X に対しても,  A(g,x) \in X が成り立つ. 
  2. どの  g, h \in \Gamma x に対しても,  A \big( g, A(h,x) \big) = A \big( B(g,h), x \big) が成り立つ. 
  3. どの  x \in X に対しても,  A( \varepsilon, x) = x が成り立つ. 

(※) 3 番の  \varepsilon は群 ( \Gamma,  B) の単位元とします. 

 

群の作用に関連して「軌道」という概念も便利なので導入しておきます. 

軌道の定義

( \Gamma,  B) を群とし,  X を集合とします. 

また,  A(g,x) を群 ( \Gamma,  B) から集合  X への作用とします.

 x \in X に対して, 集合  \Gamma x を下記の式で定めます. 

\begin{align} \Gamma x = \{ A(g,x) \in X \ | \ g \in \Gamma \}. \end{align}この集合  \Gamma x を, この作用における  x軌道 といいます. 

 

群の作用や軌道の概念を踏まえて, (2) を解いていきます!

(2) の解答方針

作用や軌道について調べると, 群や集合の性質が分かる場合が多い. 

そこで, 適切な作用を設定して各軌道を観察してみる!

 

 G n 個の要素を  g_{1},  g_{2}, …,  g_{n} と置きます. 

群 ( \Gamma,  B) を  \Gamma = G,  B(x,y) = xy と置きます. 

また, 集合  X X = G と置きます. 

2変数関数  A(g,x) A(g,x) = gx と置くと, これは  \Gamma X への作用となります. 

 

要素  z \in X を好き勝手にひとつ取り, 固定します. 

軌道  \Gamma z の要素の個数は  n 個となるので,  \Gamma z = X が成り立ちます. 

よって,  \Gamma z X の要素たちの積について, 下記の等式が成り立ちます. 

\begin{align} (\Gamma z のすべての要素の積) = (X のすべての要素の積). \end{align}この等式の左辺と右辺をそれぞれ計算すると, 下記のとおりになります. 

\begin{align} (左辺) &= (g_{1}z) \cdot (g_{2} z) \cdots (g_{n} z) \\ &= g_{1} g_{2} \cdots g_{n} z^{n}, \\ (右辺) &= g_{1} g_{2} \cdots g_{n}. \end{align}以上から, どの  z \in X に対しても  z^{n} = 1 が成り立ちます. 

つまり, 下記の等式が成り立ちます.

\begin{align} G \subset \{ z \ | \ z^{n} = 1 \}. \end{align}

 

ここで,  z^{n} = 1 を満たすような複素数  z n 個しかありません. 

よって, 集合の要素の個数に注目して, 下記の等式が成り立ちます. 

\begin{align} G &= \{ z \ | \ z^{n} = 1 \} \\ &= (1 の n 乗根全体) \\ &= \left\{ e^{2 \pi i y / n} \ \middle| \ y = 0, 1, \dots, n-1 \right\}. \end{align}

つまり,  G は必ず (1) で述べた集合と一致することが示せました!

わーい!

((2) の解答例おわり)

 

まとめ

群論を駆使して, 京府医2001年の問題を解説しました. 

もし群論を使わないとしたら, どうやって解いたらいいのかパッと思いつかないです. 

やっぱり知識ゲー感は否めないですね…笑

 

最後まで読んでいただいてありがとうございました!