こんにちは.
ぱいです.
モジュラー群 の生成系の話シリーズ第 3 弾です.
前回・前々回で, Euclid の互除法や連分数との関連性を追いながらモジュラー群 の生成系を見ました.
↓ 前回の記事はこちら
今回は, と複素平面との関連性を通して, の生成系を幾何的に求める方法を紹介します.
用語などの準備
まずは, いくつかの基本的な用語や概念を定義しましょう.
複素平面上の領域 を
\begin{align} \mathbb{H} := \{ z = x + iy \in \mathbb{C} \ | \ y > 0 \} \end{align}で定めます.
を図示すると以下のようになるので, を「上半平面」といいます.
モジュラー群 を中心 で割った商を
\begin{align} \mathrm{PSL} (2, \mathbb{Z} ) := \mathrm{SL} (2, \mathbb{Z} ) / \{ \pm \mathbf{1}_{2} \} \end{align}と書きます.
(ここで, は 2 次の単位行列とします.)
各 の属する同値類を
\begin{align} [ M ] := M \{ \pm \mathbf{1}_{2} \} \end{align}と書きます.
は, 以下のように, 上半平面 への well-defined な左作用を持ちます.
\begin{align} \begin{bmatrix} a & b \\ c & d \end{bmatrix} \langle z \rangle := \dfrac{az+b}{cz+d} \quad ( \forall \begin{bmatrix} a & b \\ c & d \end{bmatrix} {\in} \ \mathrm{PSL} (2, \mathbb{Z} ), \ \forall \, z \in \mathbb{H} ) \end{align}
前回の記事と同様に, 行列 をそれぞれ
\begin{align} S = \begin{pmatrix} 0 & -1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix} , \quad T = \begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 0 & 1 \end{pmatrix} \end{align}とおきます.
上半平面上の点 を任意に取り, や を作用させると, それぞれ
\begin{align} [S] \langle z \rangle = \dfrac{-1}{z} , \quad [T] \langle z \rangle = z + 1 \end{align}となります.
この作用 の導く上半平面 上の同値関係を
\begin{align} z \sim z' :\Longleftrightarrow \exists \, M \in \mathrm{PSL} (2, \mathbb{Z} ) \ \ \mathrm{s.t.} \ \ z' = M \langle z \rangle \end{align}とします.
なお, もっと大きな群 も上半平面 へ同じように作用します.
群作用の基本領域の定義
一般に, 群 が位相空間 へ作用 を持ち, その作用の導く 上の同値関係を ~ とするとき, 部分空間 が「基本領域」であるとは, 以下の条件 1, 2, 3 が成り立つときをいいます.
- は の開集合である.
- 任意の に対して, をうまく取れば とできる. ( は の閉包.)
- 任意の に対して, ならば となる.
つまり, 群作用 の基本領域は, 商集合 の完全代表系のような役割を担います.
さて, において と の生成する部分群を とします.
モジュラー群の作用 を 上に制限して, 作用 を考えます.
これらの作用 , に対して, 上半平面 上の基本領域の選び方はたくさんあります.
(一般に, 与えられた群作用 に対して, その基本領域の取り方は一意とは限りません.)
ですが, 伝統的に, や の基本領域としては以下の を選ぶことが多いです.
\begin{align} F = \left\{ z \in \mathbb{H} \ \middle| \ |z| > 1 , \ -\dfrac{1}{2} < \mathrm{Re} (z) < \dfrac{1}{2} \right\} \tag{1} \end{align}
この を図示すると, 以下の図のようになります.
この が実際に と の基本領域になっていることを認めて (証明は次回の記事に回すことにして), 一旦, 話を進めます.
任意の に対して, の作用による基本領域 の像 を
\begin{align} [M] \langle F \rangle := \left\{ [M] \langle z \rangle \in \mathbb{H} \ \middle| \ z \in F \right\} \end{align}で定めます.
いくつかの に対する像 を図示すると, 以下のようになります.
この図から, 以下の命題が分かります.
この命題 1 は後で使います.
SL(2,Z) =〈S, T〉の証明
準備が整ったので, を証明します.
の方は明らかです.
以下, 式 (1) で選んだ基本領域 を考えることで, を証明します.
を任意に取ります.
を任意に取り, とおきます.
(2023/07/22 追記. 赤字部分の誤植を修正しました.)
は群作用 の基本領域なので, ある とある で と表せます.
つまり,
\begin{align} w = [N]^{-1} [M] \langle z \rangle \tag{2} \end{align}が成り立ちます.
式 (2) と命題 1 より, ある で となります.
よって, , をそれぞれ , の代表元とすれば, の中心のある元 を用いて
\begin{align} M = NEL \end{align}と表せます.
ここで, です.
また, より です.
したがって, となります.
以上から, が示せました!
次回は, 後回しにした部分 ( が基本領域となることの証明) をやります.
最後まで読んでいただきありがとうございました!