シン・ぱいおつ日記

ぱいおつが始まります

環の単位元と部分環の定義の話

こんにちは. 

ぱいです. 

 

このあいだむぐむぐ勉強会で部分環の定義について雑談をして, 楽しかったです.

そこで, 今日の記事のテーマは, 部分環の定義です.

※なお, この記事では, 環は必ず単位元を持つものとします. 

※可換性は特に気にしません. 

 

早速ですが, 部分環の定義を述べます. 

部分環の定義 A を環とし,  B A の部分集合とする.  B A部分環 であるとは, 次の条件 (1), (2) が両方とも成り立つときをいう.

(1)  B A と同じ演算で環となる. 

(2)  A単位元 1_{A} とおけば,  1_{A} \in B となる. 

数学を勉強している人の中には, 「この (2) の条件は一体なんやねん!」とモヤモヤしている人もいるんじゃないでしょうか. 

今日は, そんなモヤモヤを解決したいと思います. 

 

目次

 

部分環の条件 (2) の役割

部分環の定義の (2) はまあまあ大事な条件で, 次の (ア), (イ), (ウ) をみたすような環  C を部分環と呼ばせないという役割を果たしてくれます!

 

(ア)  C \subset A である.

(イ)  C は環である.

(ウ)  1_{A} \neq 1_{C} となる.

 

(ア) と (イ) だけを見たら  C A の部分環と呼んでよさそうな気もしなくなくないです.

でも, (ウ) を見たら単位元が異なるので, 環の構造としては,  C A は少し異質で気持ち悪いですよね. 

こういう気持ち悪い例を排除するためにあるのが, 部分環の定義の条件 (2) なんです!

 

 

でも, じゃあ ↑ の (ア), (イ), (ウ) の状況が成立するような例って実際にあるの?というのが気になってくるかと思います. 

そのような例を構成するのは難しくなくて, たとえば次のような例があります. 

 A,  C をそれぞれ次のとおり置く. 
\begin{align} A &= \mathrm{Mat}(2,\mathbb{Z}) \quad (整数係数の 2 \times 2 行列全体), \\ C & = \left\{ \begin{pmatrix} x & 0 \\ 0 & 0 \end{pmatrix} \in A \ \middle| \ x \in \mathbb{Z} \right\} . \end{align}
すると, この  A,  C は上述の (ア), (イ), (ウ) をみたす. 

実際,  A C単位元はそれぞれ次の行列となります. 

\begin{align} 1_{A} = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}, \quad 1_{C} = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{pmatrix} . \end{align}

よって,  1_{A} \neq 1_{C} となります. 

 

こういった気持ち悪い状況で  C A の部分環とは呼びたくないので, 部分環の条件 (2) があるわけなんですね~!

 

ここで, 鋭い人はこんな疑問を持つと思います. 

 

単位元  1 についての条件が必要ってことは, 零元  0 についても同様の条件が必要なんじゃないの?!」

 

零元  0 については記事の後半で触れることにして, 一旦, 単位元  1 の話を続けます. 

 

部分体の定義について

ここまでは環の話をしてきましたが, 環ではなく体の場合はどうでしょうか. 

体の場合, 部分体の定義は次のとおりになります. 

部分体の定義 K を体とし,  L K の部分集合とする.  L K部分体 であるとは, 次の条件 (1) が成り立つときをいう.

(1)  L K と同じ演算で体となる. 

体の場合は, 単位元に関する条件は不要となります. 

なぜ不要なのかというと, 次の定理が成り立つからです. 

(定理って呼ぶのは大げさな気がしますが, この記事の中ではいちばん派手な主張だと思うので定理って呼ぶことにします)

定理 K を体とする.  L K の部分集合とし,  L K と同じ演算で体となるとする.  K,  L単位元をそれぞれ  1_{K},  1_{L} と置くと, 次の等式が成り立つ. 
\begin{align} 1_{K} = 1_{L} . \end{align}

(証明)

 K において,  1_{K}単位元なので,  1_{K}1_{L} = 1_{L} である. 

また,  L において,  1_{L}単位元なので,  (1_{L})^{2} = 1_{L} である. 

よって,  1_{K} 1_{L} = (1_{L})^{2} となる. 

さて, ここで,  K における  1_{L} の逆元を  x と置く. 

つまり,  1_{L} x = 1_{K} となるような元  x \in K を取る. 

この  x 1_{K} 1_{L} = (1_{L})^{2} の両辺に右からかけて整理すれば,  1_{K} = 1_{L} を得る. ■

 

このように, 体の場合は, 逆元が必ず存在するという性質のおかげで, 単位元について細かいことを気にする必要がなくなります!

 

零元について

ここまでは環や体の単位元  1 について見てきました.

単位元  1 について気にしたら, 今度は零元  0 のことも気になってくるのが自然かと思います. 

なので, 今度は零元  0 について考えてみましょう. 

 

結論から言ってしまえば, 実は, 部分環や部分体を定義するとき零元については特に気にする必要はありません. 

なぜなら, 先ほどの定理 (部分体の単位元) と同様に, 部分環や部分体の零元について次の系が成り立つからです!

(1)  A を環とする.  B A の部分集合とし,  B A と同じ演算で環となるとする.  A,  B の零元をそれぞれ  0_{A},  0_{B} と置くと, 次の等式が成り立つ. 
\begin{align} 0_{A} = 0_{B}. \end{align}
(2)  K を体とする.  L K の部分集合とし,  L K と同じ演算で体となるとする.  K,  L の零元をそれぞれ  0_{K},  0_{L} と置くと, 次の等式が成り立つ. 
\begin{align} 0_{K} = 0_{L} . \end{align}

(証明)

さっきの定理とまったく同じように証明できるので省略. ■

 

逆元の存在ってすごく強力なんだっていうことがあらためて実感できますね!

 

最後まで読んでいただき, ありがとうございました!