シン・ぱいおつ日記

ぱいおつが始まります

左逆元を無限個持つけど右逆元をひとつも持たないような反例の話

こんにちは. 

ぱいです. 

 

今日は下記の問題の解答例を書きます. 

問題左逆元を無数に持つけど右逆元をひとつも持たないような反例は存在するか?

 

「続きを読む」の下の方に解答例を載せるので, 自分で考えたい人は気を付けてください. 

 

 

 

 

 

 

 

 

(解答例)

冒頭の問題の答えは「YES」です. 

以下, 反例をひとつ構成します. 

 

 K を有限でない体とします. 

 V K 上の無限次元ベクトル空間とします. 

つまり,  V の元  v はどれも, 下記のように成分を無数に持つベクトルの形で表せます. 

\begin{align} v = (v_{1}, v_{2}, v_{3}, \dots ) \end{align}

 

さて,  L V 上の線形作用素全体のなす空間とします. 

つまり,  L = \{ T:V \to V \ | \ T \, \text{は線形作用素} \, \} です. 

 L に, 写像の合成で積を入れます. 

単位元は下記の恒等作用素  I です. 

\begin{align} Iv := v \quad (\forall \, v \in V) \end{align}

この空間  L において, 冒頭の問題の反例を構成します. 

 

作用素  T \in L を下記の式で定めます. 

(この  Tシフト作用素 と呼びます.)

\begin{align} T( v_{1}, v_{2}, v_{3}, \dots ) := (0, v_{1}, v_{2}, v_{3}, \dots) \quad ( \forall ( v_{1}, v_{2}, v_{3}, \dots ) \in V) \end{align}

このシフト作用素  T について, 下記 (1), (2) が成り立ちます. 

 

  • (1)  T は左逆元を無数に持つ. 
  • (2)  T は右逆元をひとつも持たない. 

 

以下, 上記の (1), (2) を証明します. 

 

(1)

まず, 作用素  S \in L を下記の式で定めます. 

\begin{align} S( v_{1}, v_{2}, v_{3}, \dots ) := (v_{2}, v_{3}, v_{4}, \dots) \quad ( \forall ( v_{1}, v_{2}, v_{3}, \dots ) \in V) \end{align}

この  S について,  S \circ T = I がすぐ分かります. 

 

さて, 任意のスカラー  \lambda \in K に対して, 作用素  R_{\lambda} \in L を下記の式で定めます. 

\begin{align} R_{\lambda} := S + \lambda (I - T \circ S) \end{align}

この作用素  R_{\lambda} について, 下記の式が成り立ちます. 

\begin{align} R_{\lambda} \circ T &= \big(S + \lambda (I - T \circ S)\big) \circ T \\ &= S \circ T + \lambda T - \lambda (T \circ S \circ T) \\ &= I + \lambda T - \lambda T \\ &= I \end{align}

つまり, 任意の  \lambda \in K に対して,  R_{\lambda} T の左逆元となります. 

 

これで, (1)  T が左逆元を無数に持つことが証明できました!

 

(2)

明らかなので省略します. 

 

 

無限次元の線形代数を考えると, こういう意味不明な反例が構成できて楽しいですね!

最後まで読んでいただきありがとうございました!